(※画像は@tomokafuruyaさん提供)
日本酒といえばお米から作られており、ワインといえばブドウから作られるというのは常識であると思います。
しかし、木から作られる開発中のお酒があるのをご存知の方は割と少ないのではないでしょうか?
当編集部では、木からお酒を作ることに成功した国立研究開発法人 森林研究・整備機構「森林総合研究所」にお話を伺い、作成の意図や経緯などについて取材しました。
世界初、木から作るお酒!!世界唯一の特許技術で、酒類業界に革命が
4月28日、調香師の古谷知華さんが自身のTwitterを更新。
「国立森林総合研究所の『木を発酵し醸造する』世界唯一の特許技術が凄すぎた」とつづり、3枚の画像を添付しました。
物珍しいこのお酒に関するツイートは、現在までに9,000ものリツイートと、1.5万件ものいいねがつくなど大きな反響に。
国立森林総合研究所の「木を発酵し醸造する」世界唯一の特許技術が凄すぎた。今までは樽熟成や蒸留でお酒に木の香りを移したが、この技術では木のセルロースを酵母分解し木自体の発酵が可能。樽熟成せずとも樹齢1000年の香木スピリッツが作れるなど夢がある。これは日本の酒界に革命を起こすはずだ。 pic.twitter.com/LtPNR3jmZV
— 古谷知華 | ともコーラ調香師 (@tomokafuruya) April 28, 2021
この、木からお酒を作るという技術を開発したのは、国立研究開発法人 森林研究・整備機構「森林総合研究所」。
そこで、当編集部では開発をした同機構の窓口の方にお話を伺い、作成の経緯などについて取材を行いました。(以下の回答は、開発担当者からの回答です)
Quick Timez 編集部:「木を発酵し醸造する」という世界唯一の特許技術を取得されていると存じますが、こちらを取り組もうと思ったきっかけや経緯、理由などをご教示いただけますでしょうか?
開発担当者:木の主要成分はセルロース・ヘミセルロース・リグニンの3つですが、リグニン
研究を進めるためにリグニンをできるだけ自然のまま抽出する方法として、薬剤処理や高熱処理をしない「湿式ミリング処理」という技術を開発しました。
この「湿式ミリング処理」は木の固い細胞壁を酵素や微生物が分解できるように木を微細化する技術です。
微細化後、酵素でセルロースとヘミセルロースを分解して残ったリグニンを研究に使っていました。
この開発途中で思いついたことがありました。
薬剤処理や高熱処理をしないで酵素や微生物で分解できるということは、木を原料にした新しい発酵食品が作れるのではないかと。
そこで、アルコール発酵を試してみたところ、予想外に香りに富んだアルコールが取れ、その瞬間に「世界初の木のお酒」の具体的なイメージができました。
ちなみにアルコールになるのはセルロースの部分です。
Quick Timez 編集部:「木を発酵し醸造する」という技術で作られた木のお酒ですが、実用化や商品化などのメドは立っておりますでしょうか?
開発担当者:人類の長いお酒の歴史の中で、樹を発酵して造る「木のお酒」はこれまで作られたことがなく、人類は飲んだ経験がありません。
そのため森林総研では木のお酒の飲用での安全に関する試験を進めており、現在はスギ、白樺、ミズナラ、クロモジから造られた木のお酒の試験を実施しています。
現段階で問題は見つかっていません。(既存の酒と同様、飲みすぎは健康を害します。)
それと同時に現在いくつかの団体や酒造メーカーと木のお酒の事業化に向けて取り組みを進めています。
早ければこの方々から2,3年のうちに最初の「木のお酒」の販売が開始されると期待しています。
Quick Timez 編集部:開発には、どれくらいの期間を要したのでしょうか?
開発担当者:2017年10月に税務署から試験酒造免許を取得し、そこから「木のお酒」の技術
開発が始まりました。
そのため、開発開始から3年半ほど経っています。その中で基本的な木のお酒の製造技術はほぼ確立したと考えています。
Quick Timez 編集部:Twitterでのバズを受けて、何か反響はありましたでしょうか?
開発担当者:おかげさまで、現在いくつかの問い合わせを受けています。
私どもも新しい木のお酒について広報活動を行ってきましたが、一つのTwitterへの投稿で、数日間で何万人もの人に周知されたことは大変ありがたいと感じています。
またそれと同時にSNSの威力に驚いています。
Quick Timez 編集部:「木のお酒」のPRも含めまして、何かお伝えしたいことがございましたらご教示ください。
開発担当者:木のお酒は、これまでのお酒にはない独特の木の良い香りを含む風味があります。
また大きく育った樹1本からはウイスキーボトルで数十本から百本ほどの蒸留酒ができる計算になります。
樹一本一本には育った場所の環境や土地、水さらには樹齢と言った個別のストーリーがあります。
例えば北海道の雪深い地域で育った樹齢100年の一本の白樺と、その地域のきれいな湧水で造った限定100本の白樺蒸留酒とか、奈良県の樹齢100年以上の一本の吉野杉と吉野川の源水から造られた吉野杉蒸留酒など、地域ごとのいろんなストーリーを組み合わせて付加価値の高い「木のお酒」ができると考えています。
木のお酒が日本各地の里山で製造されることによって、日本中の林業および山村地域の振興に役立てればと期待しています。
また、この技術開発の一部は、生研支援センターのイノベーション創出強化研究推進事業により実施したことを申し添えます。
セルロースとは食物繊維の一種で、「細胞壁」の主成分としても知られる多糖類の炭水化物です。
これまでには、セルロースの分子を酵素を用いて分解し、微生物の発酵によってエタノールの変換するというバイオマスエタノールの生成などには用いられてきましたが、飲料用の酒類を生成するのは世界初の技術です。
「木のお酒」、発売まで待ちきれない
蒸留酒には、ありとあらゆる種類があります。
有名なとこでいえば、大麦やライ麦、トウモロコシといった原料から作られるウイスキーや、芋、麦、米、黒糖などから作られる焼酎。
このほかにも、ジンやウォッカ、ラムといったスピリッツ類も蒸留酒として知られています。
上記の蒸留酒以外にもほとんどの場合、穀類や果実類を原料とするのに対し、今回事業化に向けて取り組んでいる最中なのが「木から作るお酒」。
ご存知の通り、木は元々食べられませんが、そうしたものから酒類を製造するという画期的な取り組みであるため、商品化が待ち遠しいと感じる人も多いはずです。
酒類業界に革命が起こるかもしれない今回の取り組み。
詳しくご覧になりたい方は、「森林総合研究所」のホームページを訪問してみるといいでしょう。
森林総合研究所詳細ページ:https://www.ffpri.affrc.go.jp/research/saizensen/2020/20201201-02.html
(文・取材:Quick Timez編集部)